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1枚のCDが世に出るまで 4

8.<レコーディング本番(演奏)> 実際の楽器の収録では、時には何十人もの人がひとつのスタジオに入り作業が始まります。リズム隊(ピアノ、ギター、ドラムス、ベースなど)のみを先に録音する場合は、緻密で洗練されたテイクを録ることが出来ます。アレンジャーや気心の知れたひとりひとりのミュージシャンの方々とディスカッションしながら進めていきます。これは例えば「赤い月」や「窓」などがそうでした。逆に「かささぎ」は、ピアノや大編成の弦や管などを同時に収録(同録)しています。この「同録」の長所は皆のテンポ感、呼吸、ダイナミクス(強弱)などを合わせ易いことで、特にクラシカルなイメージのものには最高の録り方です。

大編成の弦の録音で注意しているのは、演奏が素晴らしいか、感動的かどうかは当然ですが、最終的にミックス・ダウンで、必要な音を最適なバランスに出来る可能性が高いかどうかです。例えば2ndヴァイオリンやヴィオラの音量が想定よりも小さいということは時々あることです。後々ミックス・ダウンで2ndヴァイオリンやヴィオラの音量を上げられそうであればいいのですが、それが無理なようなら実際に弾く時にアンサンブルを乱さない程度により強く弾いてもらうようにお願いしなければいけません。ただし聞こえにくいところだけを無理に強く弾くとそこだけ音色が変わってしまったり、流れが不自然になってしまう場合もあります。また後々ミックス・ダウンで音量を無理に上げようとすると、その楽器だけ音像が近くなり、楽器の遠近感のバランスが崩れてしまうこともありますので注意が必要なのです。

録ったものを最終的に、まさし、アレンジャー、僕とで検討し、演奏者の希望その他、必要に応じて楽器ごとに部分的に差し替えてOKテイクを作ります。リズム隊の方々を始めミュージシャンの皆さんは、それぞれが最高の演奏を残せるように責任を持って必死にやっていますから、自分のパートをやり直したいと思うことは多いものです。
こうやってだいたい1曲の楽器の部分だけで10時間程度かかります。スタジオ・ミュージシャンの方々は、その場で初めてその曲の譜面を見せられて、しかも譜面に書かれてないことまで即座に完璧に弾けることが要求されます。本当にプロ中のプロの方々です。

また、どのスタジオが使えるかはとても重要です。前回のアルバム「Mist」で、確か「窓」をレコーディングした時だったと思うのですが、その日はサウンド・シティのBstしか取れませんでした。当日我々がスタジオ入りする前にピアノの調律をしてもらいました。そしてレコーディングを始めようとしました。ところがピアノの調子やその音が良くありません(スタジオの営業の方に聞いたら、いつもお願いしている調律師さんがNGだったので、別の方がやられたそうです)。ミックス、歌などを録る場合はよくBstを使うのですが、リズム隊(ピアノ、ドラムス、エレキ・ギターなど)や弦を録る時には通常は一番広いAstを使っています。その日Astは既に他社のプロジェクトで押さえられていましたので、仕方なくBstを使ったのです。しかしながらその状態では音的に本番のOKテイクに出来るグレードにはならないと判断し、レコーディングを中断しました。Astが空くのを数時間待って、改めて今度こそAstのピアノをいつもの調律師さんにお願いして本番のテイクを録りました。

このサウンド・シティAstのピアノ(スタインウェイのフルコン)が一番気に入っています。様々なスタジオを使うに際し、スタジオ到着後、本番前に時間的にも精神的にも余裕がある時には自分でピアノを弾いてみることにしています。それでそのピアノの基本的な性格やその日のコンディションを知ることが出来ますし、タッチの差にどれくらい反応出来るピアノかなどいくつもの重要なことが分かります。

スタジオを選ぶ際に注意しているのは、1.ピアノが優れているか 2.モニター・スピーカーが優れているか 3.スタジオ内の響きが優れているか 4.スタジオに所属するアシスタント・エンジニアが優れているか 5.スタジオの営業スタッフが優れているか 6.スタジオ使用料がリーズナブルか、などです(他にもありますが、専門的になりすぎますので、ここでは誤解を避けるためにあえて書きません)。

例えばモニター・スピーカーが音質的に優れてないと、演奏者たちのミス・トーンに気づけない可能性があります。例えばギターだけを録っている時には、そのギターだけに注意していればいい訳ですからあまり問題は起きません。しかし同時にいくつもの楽器を録らなければならないことは多いものです。モニター・スピーカーの解像度が悪く、きちんと調整されてないと収録する側がミスをする確率が高くなります。例えば大人数の弦の中のひとりにミス・トーンがあった場合(一流プレーヤーだって人間ですから)、僕かアレンジャーが気づかなければ、間違ったままでOKを出してしまい、そのセッションを終えてしまう可能性があります。つまり同時に何十もの楽器の音が鳴っている時に、その全ての音が聞こえている状態でレコーディングする必要があるのです。
スタジオの響きが悪ければ、大編成の弦が小編成の弦にしか聞こえませんし、ギスギスした潤いのない音質になってしまう可能性もあります。
スタジオのアシスタント・エンジニアが優れてなければ、部分的に演奏や歌などをやり直す際に、満足な結果が得られない可能性があったり、最悪は注意不足により録ったものが消されてしまったりします。

コメント

楽器の種類と音色に神経を使い、自ら音合わせして歌手と関わりスタジオの細かい事も曲作りと関係してる事を知りパパット出来て録音して、販売する、と思っていましたので反省です。プロとなればそんなに苦労はしないと思いました。すみません。

なんだか読んでいて、手に汗握る…という感じになってきました。緊張感が伝わってきます。仕事の上の緊張感は、胃が痛くなることもありますが、終わったときの開放感、成就感など、何物にも代え難いものがありますね。ますます目が離せない…この先も楽しみにしております。

フジツボさん、お陰様で一緒に楽しませていただいています。ありがとうございました。
ずーっと前の八野さんのページにも、CDの制作過程などを紹介してくださっているところがあります。みつけてみるのも面白いですよ。

では、八野さんのお話、続きを心待ちにしております。

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