« 1枚のCDが世に出るまで 5 | メイン | 1枚のCDが世に出るまで 7 »

1枚のCDが世に出るまで 6

11.<ミックス・ダウン(別名トラック・ダウン)> 曲によっては歌や演奏で数十人から百人分位の音が入っています。それを拡がり感、奥行き感などを作りだし、音量のバランス、前後左右上下間のバランス、音色のバランスなどを調整することによって1曲ごとに完成形に仕上げていきます。勿論、歌や各楽器のエフェクト(リバーブやディレイなど)も同時にほどこします。何十ものチャンネルに入っている音をステレオ(2チャンネル)にまとめる一連の作業をミックス・ダウンと呼んでいます。

この作業に入る前に、自宅で準備していることがあります。1曲毎に頭の中で鳴っているサウンドに近い曲を数多くの資料CDの中から探す作業をする訳です(この曲の歌のリバーブは「A」という曲のイメージでとか、この曲のドラムのエフェクトは「B」という曲のイメージで、という風に、時には1曲に数枚のCDを用意することもあります)。これに通常2〜3日かかります。言葉だけではなくより具体的にエンジニアにイメージを伝えることが出来ますので、これをやるのとやらないのとではスタジオでの作業効率が違います。

実際のミックス・ダウンで最終的な音量及び音色のバランスが整ってきた際に、各楽器や歌の音量バランスは±0.25dB(デシベル)がOKとNGの境界線です(専門用語ですみません)。ステレオやCDラジカセなどのヴォリューム・ツマミとそのパネルに音量の目安を示す線が引いてあるところを想像してください。そのツマミの線の位置がパネルにプリントされているある線の下か、中心か、上かはおそらく1〜2mm程度の差だと思いますが、何十もの歌や楽器を最終的にそれぞれをそれ以下の精度で追い込んでいくのです。また楽器によっては、その楽器固有の特性上ある音程を境に音量や音色が変わってしまうポイントがある場合があります。そのポイントを挟んだフレーズの場合、極力自然に感動的に聞こえるようにするだけでも大変なことです。いつも一流ミュージシャンの方々に演奏して頂いているとは言え、各楽器のフレージングに万が一不自然なところがあったり、強弱やクレッシェンド、デクレッシェンドの幅が足りなかったり大きすぎたり、強弱やクレッシェンド、デクレッシェンドの幅やスピードが楽器間でそろってなかったり、音の長さなどに不揃いがある場合にもそれを補う必要があります。ただ難しいのは、どんな楽器でも音楽全体でも完璧にしすぎると躍動感が減ったり、整いすぎてかえって魅力の無いものになってしまう可能性があることです。これにも注意しなければなりません。

このミックス・ダウンを、誰が、どのようなコンセプトで行うかによって、同じ曲でも雰囲気は全く異なったものになります。このミックス・ダウンという作業がある意味ではレコーディングの要です。通常は、それぞれの曲のミックス・ダウン最初の数時間は名エンジニア・鈴木智雄さんにお任せで作業を進めてもらい、その後、僕が加わって上記のようにより細かくバランスを整えていきます。個人的には、この作業はまるでオーケストラを指揮する感覚に近いのかもしれないと思う時があります。全ての楽器、歌、その他の音を最終的に確認しながら、どのような音量バランス、音色バランスにした時に最高の完成度、最大の感動になるのかを見極めるのは極めて大きな問題です。そして常に僕が重視するのは「温度感」です。例えば冬を題材にした曲では、「身を切られるように冷たく張り詰めた空気感」を出すのか、「雪が降っている風景を暖かい部屋の中から見ている」イメージを出すのかによって温度感も、雰囲気も異なります。一般的に温度を低くすれば、よりシリアスで説得力のあるものになりますし、高く設定すれば陽気でガッチリしたサウンドになります。エンジニアの鈴木智雄さんには、「あと2度温度を低く」などとお願いすることもあります。鈴木さんはベテラン・エンジニア故に多くの引き出しをお持ちですのでとても助かります。僕が時々かなり無理難題を押しつけているのではないかと思うと申し訳ないですが、ミックス・ダウンがエンジニアにとって一番の腕の見せ所だと思います。エディットとミックス・ダウンで1曲毎に10時間位かかります。

コメント

八野さん、こんばんは!お話ありがとうございます。やっとトラックダウンまでやってきましたね。チキガリのあっちゃんがブログで簡単にレコーディングについてお話下さったのですが、物凄いチャンネル数のアンプ(あれだけ大きい物はアンプとは言わないのでしょうか?)の画像と共に書いて下さった事など思い出しながら、そして、八野さんご自身がお書き下さった事、渡辺俊幸先生がブログ内で書いて下さった別のお話なども思い出しながら、楽しく読ませて頂いております。(こちらは、お話を読ませて頂くだけなので気楽に読ませて頂いておりますが、お忙しいお時間の中で、本当に詳しくお教え頂きありがとうございます。)そして、チキガリのレコーディングが終わった後、土日は玲子さんのレコーディングに向けてCDを聴きまくっていると思いますとお話下さった事も、今日のここを読んでなるほどと思い、お休み返上で頑張って下さる八野さんのご熱意に感動、感謝すると共に、改めて頭が下がりました。人間の言葉で表現できる事はやはり限りがあります。自分の思っているイメージを伝えたいと思っても、なかなか難しい事も多いと思います。それを相手に具体的に伝える為の努力を惜しまないところが凄いと思います。永年ご一緒にお仕事をなさってみえたお仲間でお互い気心も分かり合ってみえる間柄だとは思いますが、それでも、やはりより良い物を作り上げる為により分かりやすく相手に伝える為に努力を惜しまないところが凄いと思います。ありがとうございます。スタジオのピアノをご自分で弾いてみて、そのピアノの特徴やスタジオの空気をご自分で確認されたりされる事にもとても驚きました。八野さんご自身も本当にマルチなお方なのですね。それにしても、以前スタジオミュージシャンとして別のレコーディングに参加された事のある方のお話を読んだ時も初見ですぐ演奏せねばならないことに驚いたものですが、今回ここを読みながら本当にプロの方というのは物凄い才能の持ち主なのだと本当にびっくりしています。

おめめさんの言われる通りですね。無知な私如きが発した事を毎日こんなに長文に!細かく解りやすく教えて下さり申し訳ない思いです。どの道もプロとなると尊敬に値いするものですが、歌作りは特殊な道ですね。完成した物を喜んでもらえたか?こんなに多くの時間と人が関わり作り上げても、時にしぼんで行き、消えて行き、突然爆発したり、作り手の思いとは離れてしまうときもある。聞く側の思いと一致した時には想像を超える事もあろうかと思います。それには、時代も関係してくるようですね。今は、録音技術が優れていて歌が上手くなくてもCDが出来上がる時代。でもそれはやはりそれなり。聞く人を騙されないと思いますね。この連載はとても貴重なものではないでしょうか!あと2回あると思いますが、音楽関係目指す人にも教えてあげたいです。それと、関係ないことを聞きますが何れ書くことに困った時で構わないので、歌が上手くなる方法をこっそり(ブログ上ではこっそりでもないですが)教えて下さい。息が続かない事と自分の声が高いのか歌える歌が限られます。娘とカラオケ行きますが、アイコさんとかドリカムさんとかいつも上手く聞かせてくれるのに、私は、「美しい十代」「修学旅行」「東京のバスガール」この繰り返しなので最近は娘も誘ってくれません。彼氏が出来たことも大きいですが。息が切れる事が自分の中で残念です。さださんは、いつも歌い上げてからも息が続くので感動がすごいんです。詩で感動している所にもっと上げてくれます。血が沸くのでしょうか?汗をかきます。私も歌手ではないですし、たかが娘とのカラオケぐらいでと諦めていたのですが、八野さんのこの連載を読んでる内に歌が上手くなれたらいいな・・と想い初めてしまいました。苦手な腹筋も始めました。長い無駄話ですみません。

おめめさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

僕は別として、皆さん才能のある方ばかりです。そういう方々が、同じ方向(まさしが走っている方向)を見つめながら必死になって一緒に走り、自分の役割を演じてくださっています。
そういう風になった時に、単なる足し算ではないものになるのだと思います。

フジツボさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

おっしゃる通りです。
聴いてくださる方にとっては、作り手がどんな努力し頑張ろうとも、そんなことは関係ありません。音楽は嗜好品ですから、聴く方によって好き嫌いがあるのは当然ですし、それでいいのだと思っています。

ただ「好き嫌い、つまり自分の趣味」と「プロデュース」は別物です。「プロデュース」とは自分の好きなものを作ることではありません。プロデュースする対象が結果的に一番輝くように準備し、そのプロジェクトを導くことだと思います(何故こんなことを書いたのかは、このコメントを最後までお読みいただくと分かります)。

さて、「どうしたら歌が上手くなるのか」です。近道などありません。この「上手い」というのが何を指すのかが問題ですが、個人的には「耳を鍛える」ことが結果的には一番だと思います。そして主観と客観を歌いながら同時に持つことだとも思います。このことは上記の「プロデュースとは何か」とも密接に関係します。

もし、今まで歌曲の歌の部分のみをメインにお聴きになっているのなら、バックのオケがどういう風に成り立っているのか、オケの起承転結、歌と絡んでいる楽器は何か、などに耳を傾けてください。それによって音楽全体、場所場所での変化、どん風にオケが歌と有機的にからんでいるかなどを感じてください。
そして次には、例えば意識の半分は感情を込めて歌うことに使い(表現 or 主観)、残りの半分は音程、リズム、ダイナミクスはどうかなど(テクニック or 客観)に使ってください(この比率は暫定的なものです)。
で、それを録音して、より客観的に聴いてみてください。それを上記の比率を変えるなどして繰り返して、試行錯誤することもいいのでは、という気がします。そうやって自分にとってどういう時が一番好ましいのか探ってください。
その先に行って、どういうものがその人に一番合っていて、他人が聴いて感動的か、となると、それがそれこそ「プロデュース」に行き着きます(セルフ・プロデュースであっても)。頑張ってください。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)